1956年から1961年までのSchilkeトランペット

Schilke Music Products, Inc.は1956年からトランペットとコルネットを製作する ビジネスに携わってきましたが、現在の製品ラインとシリアル番号の始まりは1961年 でした。それ以前のSchilke製作のトランペットはその後のデザインに大きな影響を 与えています(軽量の材質、リバースリードパイプ、最低限の支柱)が、個別の オーダーによって非常に少量しか作られませんでした。40年以上経ったホーンは やはり紛れもないSchilkeトランペットです。

Schilke製造の最も古いトランペットは、私が見つけた限りでは3桁のシリアル 番号です。シリアル番号207と208のSchilkeトランペットを所有する人たちと それぞれコンタクトを取ったことがありますが、それらは1956年製でした。 ある時点より製作される数が増え、シリアル番号のつけ方が変わりました。ホーンが メッキされた日をシリアル番号とすることになったのです。例えば、2358という 番号を持つ楽器は2357と2359の間に作られたのではなく、1958年2月3日に作られた ことを意味します。これはその楽器のオーナーが最近Schilkeに確認したものです。 1958年のSchilkeの広告がこちらでご覧 いただけます。ここにラッカー仕上げのブラスの楽器があることにご注目ください。 1961年にはそのオプションは無くなりました。

初期のホーンとのさらなる違いは、バルブの番号と深いバルブボタン (六角形のキャップ、ボタン、支柱は変わりませんが)、ニッケルシルバーバルブ (今はブラス)、ブラスのバルブガイド(今はプラスチック)です。 小さな"Schilke"という刻印がセカンドバルブケーシングに見られます。これは 1961年以降の特徴である四角い枠の中の"Schilke, Chicago USA"というセカンドバルブ の刻印とは異なっています。

2358番のSchilkeトランペットの写真をいくつかご紹介しましょう。

真のSchilke信奉者であるミシガン州Grosse PointeのRon Jiminsonに、これらの 写真提供を感謝します。

Mシリーズ

ヤマハが、60年代後期に北米市場向けの楽器を設計するためにRenold Schilkeを 雇った後、ヤマハとSchilkeは1982年のSchilke氏が亡くなるまで多くのジョイント プロジェクトで協力関係を続けました。

その中から生まれたのがMシリーズです。Mシリーズは「中級」ホーンとして Schilkeのマーケットシェアを拡大するために設計されたものです。Mシリーズの CとE♭のトランペットも僅かな数作られましたが、Mシリーズは主にB♭トランペット でShilke B5の仕様(ミディアムラージボア、ミディアムラージベル)にしたがって 作られました。ある元従業員によれば、Schilkeのカスタムホーンの詳細な記録とは 対照的に、正確な記録は残っていないらしく、製造されたMシリーズの数は部分的に 推測に基づくものです。今までに製造されたM-IとM-IIはそれぞれ約1500本と、ほぼ 同じ数です。チューナブル・ベルのM-IIは2本作られました。最初のMシリーズの ホーンは1969年に作られ、70年代中盤にその生産はピークを迎えました。1982年に Schilke氏が亡くなってヤマハとSchilkeとの提携が終了し、Schilkeがヤマハに部品を 発注することはなくなりました。Mシリーズのホーンは、1984年に在庫部品が底を 付いて生産が打ち切られました。

M-Iは、すべてヤマハ製の部品を使ってSchilkeが製作しました(「組み立てた」と 言ったほうが正確かもしれません)。M-IIもM-Iと同時期に作られました。M-IIは Schilkeのリードパイプと、初期段階の短期間はSchilkeのベルが使われました。 70年代のSchilkeのカタログによると、M-IIはM-Iよりも$20高い値段がついていました。

Mシリーズのホーンには、学生や中級者向けの楽器に良く見られる、調節可能な 第3バルブスライドリングと第3抜差管がついています。支柱は六角ではなく円柱で、 Schilkeのカスタムトランペットのような第2バルブの2つの小さな突起はありません。 Mシリーズには第1バルブのサドルがあるものも無いものもあります。ヤマハの デザインの詳細は後述のYamalloy バルブの呪いに記載してあります。シリアル番号は20XXXから29XXXです。

最近になって、初期のM1は上述のような特徴に当てはまらないことを知りました。 Erik Kurzはシリアル番号16XXのM1を所有していて、1976年にそれをRenold Schilke氏 に見せに行ったのです。Schilke氏はKurzに「それは最初に売ったMシリーズだ」と 告げたのです。2000年10月にe-Bayでシリアル番号1802のものが売られましたが、 それは変わったマウスピースレシーバー、Bachのようなバルブスライド、奇妙な ベル/バルブ・クラスター支柱が付いていました。多くのパーツがSchilkeらしく ないものでした。Mike Lawlerはシリアル番号17XXのM1を持っていますが、それは 前述の2機と同様のもののようです。

また、おそらく1ダースほどのM-IIが現存し、それにはマウスピースレシーバーに "Autrey"という刻印があります。これらのホーンは当時ミシガン州立大学で トランペットを教授していたByron Autreyに焚きつけられて、70年代初頭に作られた ものです。他のM-IIとは、よりオープンなF. Besson型のリードパイプを除いて 同一です。

Mシリーズのトランペットは製造品質や品質コントロールにおいてSchilkeの カスタムホーンと共通するところがほとんどありません。これは使われている部品も 製造工程も異なるためです。ある元従業員によれば、Mシリーズの組み立てはたいてい 1時間ほどで終わるのに対して、Schilke氏は「本物の楽器」を製造には80時間も かかるのだ、と自慢げに語っていたとのことです。MシリーズのB♭トランペットは Schilkeのカスタムトランペットの約80%の価格です。

時折あることですが、これらのホーンの中にはB5に似てとても演奏しやすいものが あります。しかし大抵のものは基本的に古いヤマハ中級モデルと同等のものですので 値段もそれなりであるべきです。Mシリーズが売りに出されていることがありますが、 350ドルから400ドル程度でしたら、生徒用やマーチングバンド用として適当です。 1200ドルの値が付いているものを見たことがありますが、腹をかかえて笑いました。 e-Bayで750ドルで落札されたものがありますがそれにも笑ってしまいました。もう 100ドル出せば、中古のSchilkeカスタムホーンが手に入るのですから。

 

Yamalloyバルブの呪い

Schilkeとヤマハのコラボレーションの一部として、Schilkeはヤマハ製のバルブ ケーシングを1972年から1982年3月までの間、ポピュラーなトランペット(B1, B2, B5, C1, C2)、コルネット(XA1, XA7)に使用しました。これらのホーンはSchilke製のバルブ ケーシングを使ったSchilkeと同じように鳴りますが、バルブ故障の歴史があります。 Arturo Sandovalの最初のSchilkeはヤマハケーシングのB1でした。こうしたホーンを 見分けるのは難しいことではありません。1972年にSchilkeのシリアル番号はゆっくりと 7800までしか上がりませんでしたが、ヤマハケーシングのホーンは20XXXからスタート しました。オリジナルホーンのシリアル番号が19999まで到達すると、Schilkeは20000 から29999までをスキップし、30000から続きを始めました。つまりヤマハケーシングの ホーンのみが20000から29999までのシリアル番号を持っていることになります。 そのほかに、ヤマハケーシングのホーンとSchilkeカスタムとの区別のしかたには、 1)バルブの間の管がストレートでなく、弓のように曲がっている、2)バルブ間の支柱が 六角ではなく丸い、3)バルブケーシングの2/3くらいの部分にある2本の細い線、などが あります。また、ヤマハバルブケーシングはSchilkeケーシングはボトムバルブキャップ の締め付けが緩いようです。最後に、私が比較的少数のサンプルから観察した点は、 各バルブの1,2,3の数字が、ヤマハ製の場合はマウスピースレシーバの方を向いていて、 Schilkeの場合はベルの方を向いています。もしこれがあなたのホーンに当てはまらない 場合、私にメールしてください。

Schilkeにとって不幸だったことは、この間ヤマハは伝統的なモネルメタルや ニッケルではなく、新しい合金をバルブへの使用に試していたということです。この 合金は現在ではYamalloyとして知られています。紙上では良さそうに見えるのですが、 Yamalloyは身体の化学物質と化学的に反応し、バルブケーシングのブラスが最も 都合が悪いときに調子が悪くなることがあります。したがって細心の手入れを 行わないと悪化してしまいます。この結果この時期のヤマハとSchilkeのトランペットは そのバルブのために評判が悪いのです。身体の化学物質が問題の一因であるらしい ので、全く問題なく使用している人も多く存在します。

この問題には比較的簡単で安価な解決法があることがわかっています。 インディアナポリスのある優秀なリペアマンが発見したのですが、あまり一般的では ない化合物でできた薄い膜でバルブケーシングを覆ってしまうことで問題が解決します。 これに対するコストは3つのバルブ合わせて40ドル、配送費10ドル(US48州)です (1999年夏現在)。1997年以来2本のトランペットにこのリペアを施しましたが、 どちらもバルブはすばらしいものになりました。このリペアマンはリペアを終えた後 1週間手元に置いて指導やプレーに使用してリペアが成功していることを確かめる のです。修理が完了した楽器が手元に戻ってきたら、2週間ごとに約2ヶ月間、石鹸と 水でバルブとケーシングを完全に掃除して、余分なラップ剤がピストンを傷つける ことが無いように手入れする必要があります。お金を節約するため、ホーンは ケースに入れずに、4インチか5インチのエアクッションで包んで、丸めた新聞紙か 発泡スチロールで詰め物をした箱に入れて送ってください。UPSで送るのに最も良い 方法は、Mailbox Etc.等ではなく、UPSカスタマーセンターに直接出向くことです。 現時点ではUSポスタルサービス(訳注:アメリカの郵便局)のPriority Mailで 保険を掛けて送るのが最も速く、最も経済的な方法かもしれません。

この修理はその楽器にとって一生モノです。この方法で修理されたホーンが 化学洗浄に耐えてケーシングの膜が損なわれなかったケースを2例知っています。 しかし、シカゴのBrass BowのWayne Tanabeによる超音波洗浄をYamalloyに対して 施すと、その洗浄があまりにも徹底しているためバルブを覆う膜まで取り去られて しまい、のろいが再発します。どうやってこんなことを知っているのかは 聞かないでください。

この問題を抱えたホーンを持っていて悩んでいる方、もう悩みは不要です。こちら から私にメールしてください。このマジックを行ってくれる魔術師の連絡先を お教えします。

Yamalloyの呪いを和らげる効果があるというオイルがあります。BiNak 495という非石油系のミネラルオイル ベースのバルブオイルでSelmarが販売しているものです。今まで2件の報告が ありましたが、これもおそらくおそらく身体の化学物質によって効果はマチマチ でしょう。それでもやってみる価値はあると思います。

 

Schilkeのフリューゲルホーン

かつてSchilkeはフリューゲル ホーンを作ったことがあります。それは特異な形をしており、水平のバルブで 1番と3番バルブスライドリングが付いて、ベーストランペットベルが付いていました。 SchilkeのBフラットと同じくらい長く、我々に馴染みのあるフリューゲルホーンよりも 短い(狭い)ものです。ボアも通常のフリューゲルより幾分大きいものでした。 (こちらに大きな写真が載せてあります。)

Schilkeがフリューゲルを作り始めたのは1967年で、1982年に製作を中止しました。 作られた数はとても少なく、15年間でわずかに125本程度に過ぎません(元従業員の 証言)。多く(ほとんど?)はヤマハバルブケーシングを用いており、特有の問題を 抱えています。70年代Renold Schilke自身が改良を試みてデザインを繰り返しいじり 回したのですが、結局彼の死後1982年には製造を止めてしまいました。製作されていた 15年間の間に何度もデザインに小さな変更が加えられたため、125本の多くはそれぞれ 少しずつ異なっています。改良のための相当の努力にもかかわらず、Schilkeフリューゲルは 従業員は失敗作だと考えていますし、購入したヒトにも不評です。面白いホーンでは ありますが、フリューゲルホーンとしてはいかがなものでしょうか。私も何年か前に プレーしたことがありますが、それは何というか・・・面白い・・・フリューゲルでした。 それだけです。面白い・・・(訳注:"interesting"という表現が使われています)

しかし、Schilkeフリューゲルが他に影響を与えなかったのはあまり面白くありません。 F.E. Olds & Son,といy会社が六角形のバルブボタンとキャップまでコピーして、 さらに面白いOlds Superstarモデルとして販売していました。おそらく偶然ではない のでしょうが、それはOldsがリリースし、70年代後半に会社が倒産する少し前に Norlinに所有権が移りました。この情報を提供してくれたLawrence Van Ameydeに 感謝します。彼は以前にこの楽器を所有していたことがあるそうです。

時折Schilkeフリューゲルは売りに出されます。もし出来のいい貴重な面白いホーンの マーケットに興味があるなら、このような楽器はコレクションに加えるのにはとても 良いでしょう。しかしフリューゲルが必要でしたら、ほかを 探してください。

 

Other horns

Schilkeはトランペットとコルネットで有名ですが、Schilke氏存命中は新しい 分野に挑戦しようとしていました。結果として実験的トランペットや カスタムトランペットが多く生まれました。例えばA/B♭兼用トランペット、クォーター トーントランペット、4バルブB♭とCトランペット、ポケットトランペット、アルト トランペット、ベーストランペット、コントラバス(!)トランペット、各種キーの ヘラルドトランペットなどです。

New Mexico Symphonyのベーストロンボーンプレーヤ、Dave Tallは、Schilkeが 80年代にヤマハのパーツから数本のトロンボーンを作ったのを記憶しています。 ラッカーされていないベルトFバルブの.547オーケストラ用ボアテナーがありました。 楽器の反応の仕方を変えるため、2つのチューニングスライドの形状のオプションが ありました。Chicago Symphonyの2ndトロンボーンプレーヤであり、Northwesternの 講師でもあるFrank Crisafulliは、Schilkeトロンボーンを80年代初頭に少なくとも 2年間プレーしていました。これは当時のCrisafulliを研究したTall氏による情報です。 これらはカスタムメイドの楽器ではなく(Crisafulli氏が設計に深く携わったことは 確かです)プロトタイプでしたが、Schilkeは生産に移しカタログに加えることを検討 していました。

 

Schilkeショップによるリペアと修復

伝統的にSchilkeの工場はすばらしいホーンを作るのと同時に、米国内における カスタマイズとリペアのプレミアショップでした。例えば、BachのCトランペットを チューニングベルデザインに変更することも行いました。しかし数年前、Schilke製品 のみのリペアやカスタマイズを行うという決定がなされました。Schilkeをプレーする 人たちには朗報でした。カスタマイズや修理の、長い待ち行列の先頭へと移動できた のですから。

この時点でSchilkeトランペットをプレーする利点の一つはSchilkeが製作した 楽器をいつまでも演奏できる状態に保つという確約でした。この実質的な効果は、 Schilkeがオーバーホールやリストア、リプレート非常に安いコストで行ったという ことです。このオーバーホールなどの仕事は元の製作過程と同様に完璧なので、 同様にプレミア価格を払わなくてはならないだろうと考える人には予想外でしょう。 おそらくSchilkeを持つ二次的な利点は、驚くような安価で、楽器を作った人たちの 手によって楽器を最高の状態に戻すことができるということでしょう。しかし最近では Schilkeは何人かの従業員を失い、限定したリペアワークしかできなくなりました。

何年もの間、こうしたリペアジョブはRon Pinc("Prince"の"r"の音を抜いたように 発音します)によって行われてきました。PincはSchilkeを離れ、Scott Laskeyと共に 自身のリペアショップを開きました。彼は小型ホーンのリペアだけでなく、フレンチ ホルンのリペアのエキスパートでもあります。PincはSchilkeと良好な関係を保って おり、SchilkeはPincにリペアを紹介しています。しかし彼のように非常に良質な 仕事をするところには「待ち」が付き物です。Ron Pincは、電話 (630) 889-2188 またはFax (630) 889-2190で連絡がつきます。

SchilkeはPincのような能力の"O & S"(Schilke用語でOverhaul & Silver plating)職人を採用しようとしているはずです。そのような職人が見つかるまでは オフィシャルSchilkeリペアやカスタムワークに最も近いのはRon Pincです。


 

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